唐津一教授基調講演
「売れるようにすれば売れるし、儲かるようにすれば儲かる」

平成10年7月20日(土) 渋谷東武ホテル 16:00〜17:00 山下憲男 取り纏め

(司会)

唐津先生は品質管理の最高峰であるといわれているデミング賞本賞受賞はじめ、数ある賞を受賞されておられるが、この度も2賞受賞されたので本日は唐津先生の教え子が集まり、祝福の前に基調講演をお願いする次第である。

今回受賞の内容は経営科学有功賞(財)日本経営協会 1月19日受賞「永年に亘りOR、QC、コンピュータ等の啓蒙を通じ産業、経済に多大な貢献をした功績」。

第一回小林宏治賞(社)科学技術と経済の会、会長佐波正一(東芝相談役) 5月26日受賞「技術革新の方向と望ましい社会の将来性を示すのに多大な貢献をした功績」。

柔らかい賞ではイエローリボン賞(日本で一番素敵なパパに与えられる賞で、本年は日本サッカー岡田監督が受賞された賞)などを含め過去多数受賞されている。


(講演内容)

今週の月曜日に外人記者クラブで40人の各国記者との会見があり「日本の現状はどうで、これからどうする」ということを話してきた。

外国の新聞記者に「目から鱗が落ちた」と言われた。外人にこんな日本語で表現されるとは思わなかった。質疑応答があり、日本で大騒ぎしている円が140円で円安のこの騒ぎをどう思うかとの質問に「結構ではないか」と言った。

我々物づくりの人間はプラザ合意で突然円が上がって死にものぐるいで頑張った。3年前80円になったこともあるが、もともと円はあてにならないものであり、何度も経験しているので140円にはビックリしない。

むしろ、80円の頃、工作機械メーカーは何とか利益がでるようにして実際ものを作った。一昨年、有明の展示会に見に行ったら外国の物より3割安かった。80円体制でやって120円になったから元気が出て、それ以来、43ケ月伸びている。今は絶好調である。

こんなことはは先日Voiceにも書いたが同じような内容を外人記者クラブでも話してきた。


Voiceの記事を転載してありますのでここをクリックしてください。


日本の新聞記者は大変な論調で140円になったら国が潰れるようなことを書いているが、円は一種のバクチである。投機の金は一日一千億ドルで、実際の物を売ったり買ったりする取引のお金は一日に六億ドルで約5%ぐらいである。

円の相場はその一千億ドルで動く、投機経済で実利経済とはハッキリ分かれている。円は投機の方で円が上がったり下がったりしているのであり、メーカーはこんなことでは動じない。ことになことに目を向けていたら経営がおかしくなる。


新聞はあてにならない。

新聞の一面に2年間証券業界の不祥事ばかり書き続けているがこの四月からビタリと止んだ。日本の不況はなぜ起きたかというと消費者の心理が冷え込んだことにある。一般の消費者の経済は二百九十兆円ある。日本の経済は五百兆円あるので、ざっと6割は個人である。

昨年のGDPは前年に比べ0.9%に落ちたが円高は80円で落ち込み後は段々元気が出てきて今はチョット悪いが悲観することはない。一昨年のGDPの伸びが3.6%のときGDPは500兆円であった。このことはすごいことである。

ヨーロッパはEU、通貨統合あったので3月に廻って各国の経済を調べてみた。

イギリス、ドイツ、フランスのGDPを足すと日本と同じ五百兆円である。現在は日本が一割ぐらいすくなくなったが大変な経済力を持っているし、これに千二百億兆円の貯蓄がある。これは製造業のお陰である。

先般バリで講演依頼を頼まれJETROに立ち寄り日本の新聞を見たら鉄鋼3社の増収増益の記事が出ていた。日本では重厚長大といやな言葉を使っているが工作機械の元も鉄であり、鉄鉱石は輸入品である。鉄鉱石は日本に入ってきたときは1トン2千円である。鉄板に加工すると1トン5万円で、その鉄板を工場で自動車にすると1トン100万円である。2千円が5万円になり100万円になる。勿論これを作るにはコークスなどいるが要は付加価値がどんどん付いていくことである。

昨年夏に日経ビジネスに書いたことは「今、日本の経済を議論している方々はエコノミストで経済の専門家と言われる人々は何であんな事を書くのかと考えたら気が付いた。普段つきあっているのが金融・証券の人達ばかりである。金融・経済はガタガタである。仲間がガタガタだから日本もガタガタだとと言うのは止めろ」である。

日経は毎月出ている記事の読者の感想を調べており、今年の始めに日経から電話があり一番評判が良かったとの言ってきた。

日本の経済は金融・証券で成り立っているのではない、数字で上げると金融・証券の規模は25兆円で日本経済の5%でしかない。製造業は125兆円で25%である。

たった5%でガタガタ言っており、はなはな迷惑な話である。皆様も公平にバランスよい目で経済を見てほしい。


日本の製造業は国内では間に合わないので、皆さんの会社もそうだろうが海外で作っている。通産省のデータによると製造業だけで95年度は41兆円で、因みに製造業の41兆円は韓国のGDP全体と一緒である。製造業だけで海外生産が41兆円は凄いことで、昨年はさらに製造業だけで47兆円に達していた。しかも海外でやっているので国内のような貸し渋りもない。銀行はいくらでも貸してくれる。

日本の製造業は各国で人を雇用しているその数をJETROで調べてもらったら300万人である。米国では62万人雇っており、米国でものを作り輸出しており、米国の総輸出の9.2%は日本の会社である。米国の車の輸出ではトップがホンダ、2位トヨタ、3位がGMである。新聞、マスコミなどが報道する貿易摩擦だどうだとか言う物差しでで物をみてはいけない。これは日本企業のグローバルゼーション、国際化と呼んでいるが、世界中の企業がやっている。

パソコンの例で言うとマウスの裏を見たらわかるがチャイナで、CPUは米国、半導体は日本、CD−ROMは日本が圧倒的で、サウンドボードはシンガポールで出来上がったパソコンは何でできているかというと国籍不明である。貿易統計を見ると黒字が多いとかなんとかとの議論になるのがそもそもナンセンスである。これらのことは昨年10月米国政府に呼ばれたのでワシントンの会議で発言したが、日本側にこのような発言をする人は皆無である。

つまり、物を作ったことのない人達が向こうに行って交渉しているので何ともならん。技術者連中はこんな事ぐらい当然の事実である。

先日、読売新聞の記者が来て世界で言われていることでと質問があった。日本の技術者はいささか傲慢になってきたのではないかと言う質問である。それはどこの話だと尋ねてみた。技術者というものは、どこの会社でどんな物をつくっているのか全部知っているものなのだ。勝つか負けるかの勝負を必死でやっているのだ。そもそも、そんな見方が間違っており、そんなことを書く人のことを評論家というのだと言っておいて記事を訂正させた。このようなことを我々がひとつずつ訂正して教えてやらなければならない。

台湾にエイサーという会社があり世界一といわれている。先般、工場を訪問したら技術屋が来たと言うことで工場長が直接対応してくれた。部品の段ボールを見ればどのメーカーか直ぐわかる。TDK、Panasonic、コンデンサーはどこ製かすぐわかる。ハンダ付けの後を修正する人はフィリピン人で、これで安くできる。

工場長に設計はどこかと聞いたら、すかさず当社はマクドナルドですという答えが返ってきた。つまり、ファーストフードチェーンでバタバタと物を作っている。シリコンバレーで設計してもらい、図面ができたら日本より部品を集めて最終の修正はフィリピン人。

これがエイサーの世界一になった理由である。知っていてなぜ日本の部品を使うのかと尋ねてみたが、このような行程で物を作っていると不良品が出るとアウトで完全な部品でないと危なくて仕方がないという。こうなると人助けである。こんな話は良く聞いてみなければわからない。物づくりのグロバルゼーションは世界中で進んでおり、その中でどうやって特長を打ち出していくかだ。


今500兆円の経済の中には物を作ることと付加価値部分が含まれている。技術はどんどん変化しており昼寝していたら一発で後れを取る。技術は一年経ったらダメ、日本の会社はものすごい研究開発費を使っている。

オリンパスの社長とコマーシャルで日経新聞で対談したとき尋ねてみたが売上げの15%をつぎ込んでいるとのことでこれは大変な金額である。胃カメラは世界の独壇場であるが、さらにファイバーで1ミリのものが血管に入るそうでありミクロの決死圏の映画がオリンパスの技術で現実のものとなりつつあり、もはやお腹を切らずに手術ができるようになる。

海外でも特許が非常に多くなってきた。昨年米国で成立したパテントトップ10社に米国は3社(IBM、モトローラ、コダック)、日本は7社である。外国人新聞記者クラブでも言ったが技術収支という見方があるが3年前から黒字になり、現在1.4倍になっている。

このようなことは知らない人が多い。NHKのBSでNECの関本さんたちと対談をやったが司会者が止せばよいのに日本は技術は外国から輸入してうまいこと組み立てて輸出しているではないかと冒頭から言ったので、何年前の事を言っているのかと、とんでもないと言っておいた。

しかし、この技術収支はいつ逆転させられるかわからない。自転車と一緒でこいでいないと倒れる。昔は自転車操業というと悪口になったが日本の技術は自転車操業だから世界のトップを走れるのであって世間でいわれている経済論は信用しない方がよい。現場を知らない人達がいっている言葉である。


労働力調査を見たらサービス業が3年前に製造業従業員数を抜きトップになっており、さらに200万人ふえて1600万人である。

 総務庁は平成八年にサービス産業基礎調査によると、平成元年から六年までの五年間だが、この間の製造業の成長率は〇・五%で規模が三百兆円であった。これに対してサービス業では、なんと四六・九%の成長となっていた。つまり、平成不況の真っ最中にサービス業だけは見事な成長ぶりを示して百十八兆円に達していたのだった。そのなかで対個人サービスの成長率はなんと六四・七%となっている。 

要はサービスの中身である。昔からサービス化は言われていたが、当時のサービス化は2次産業が2.5次化する。物づくりだけではなくてそれに付加価値を付けてソフト化する。それは知的価値を付けるという考え方であった。

今のサービスが伸びているのはこのことではない。

1位はホテル・旅館、2位はビルの管理、3位はその他で分類が明確になっていない職種でコンピュータは5位である。つまり、今伸びているサービス業は労働集約型、筋肉労働なのである。

さてここでいうサービスとは何かである。これはもちろん英語である。ウエブスター辞書を引くと、真っ先に出てきたのがサーバント(召使い)、スレイブ(奴隷)といった種類の言葉である。その次に軍隊に入って国に尽くすとか、テニスのサーブ等と続くが、まとめてみると、誰かのために何かの仕事を代行する仕事という意味で、この産業がものすごい勢いで伸びてきているのである。これらの業界には不況はない。不況は金融・証券だけと思えばよい。

引っ越し産業はやりである。ゴルフやスキーに行くにも道具は宅配便で送る。家庭科理も台所で自分でつ←るのは廃れてきた。自分で料理しなくても出来合いの調理済みのインスタント食品が何でも買える。 

つまり、面倒なものは何でも金さえ出せば引き受けてくれる代行業が急速に発達した。これがまさにサービス業そのものであって、日本人の生活にゆとりが出てきたため生まれた、いわば「ずぼら産業」である。

FM東京が”見えるラジオ”を売り出したら、昨年突然売れはじめて二百万台を超した。これはFM放送の電波のなかにデジタル信号を入れてニュースや天気予報を文字で出すというアイデアです。つまりポケベルのFM版である。

 FMラジオで文字を送るというアイデアは技術者なら誰でも考えるものだが、最初はさっぱり普及しなかった。ところが社員のアイデアでニュースとは別にタレント動向についての情報を流しはじめたのである。それで、あっという間に二百万台を超してさらに売れている。 

これを例外的な話と思っては間違える。先般タレントが自殺し、築地本願寺で葬式があったら若者が5万人も集まった。どんな偉い人でもこんなには集まらないだろう。こんな事に我々は感度を働かしていなければならない。

いまの消費者はこれくらいのものを買う金は十分もっている。だからこれは面白いと思ったら、あっという間に普及するのである。まさに高感度消費の時代なのだ。


平成6年に私は元日銀総裁の三重野さんを中心に中核企業研究会というのを編成した。

30人の小さな会社から1万人を越す会社まである。最初は小さな会社を対象にしていたが近頃は親会社までメンバーに入ってきた。このメンバーの重要なことは全てが完全に国際化しており、さらにいうと無国籍化している。最も重要なことはそれぞれの企業を支える技術は全部自前で開発したと言うことである。

シチズンの腕時計の中身はムーブメントであり世界のシェアの40%を握っているが工場は田無にあって無人化したところで作っている。そしてこの工場は、絶対に海外には持っていかないといっているのである。作業員がいなければ人件費は関係なくなる。しかも手元にあれば技術の開発、改善を非常にスピーディに行うことができる。さらに、技術の優位性を保つにはどうしても手元でやらなければ駄目だ。このような発想である。

また、一方においてヒューレット・パッカード(HP)のようなすでにグローバル化した企業も仲間に入れてくれと言ってきた。しかし、この企業の努力を見てほしい。75%の売上げは3年以内に開発した新製品であり、驚くべき開発力である。この源は中小事業部の集積体で日本型経営のお手本のようなものである。

その設備がなければモノができなめという商品は強力だ。和歌山の島精機は、いまや多忙で会社の受注残がどれだけあるかまだ聞いていないが、かなり先までいっぱいだという。それは全く継ぎ目のないニット縮み機を世界で最初に完成し生産に入ったからである。

島精機はこれまでにも他社に先駆けてユニークな製品を出すことで有名である。以前にもコンピューター・グラフィックでデザインしたデータを、そのまま編み磯にかけると自動的に仕上がって出てくるという機械をみせてもらったことがあるが、今度のはこれまでのニット縮み機の夢であった継ぎ目なしというのだから、これは売れることは間違いない。イギリスがもともと紡績の発祥地であるがイギリスからも国をあげて注目されている。


新産業の種は尽きない

ある特定の分野について圧倒的な競争力を持つ。そしてそれを絶えず進歩させていく。それが中核企業の特長である。

それを具体化するためには自分で生産設備や部品を開発し、一番要になる技術を自分の手の内で開発をつづけていくということが基本である。これを忘れて近頃流行の外注をやればいい、アイデアだけ持てばいいという考えは失敗するだろう。

製造業というものは、結果的にはものをつくることである。よそで似たようなものが出てくれば必ず足をすくわれる。その要になる技術だけは自分の手で自ら開発するしかない。その方法としては生産設備を自前で作ることである。一番難しいところは人に教えるわけにはいかないのだ。

ものづくりのために使う物理学や化学の法則は、地球上どこに行っても公平に作用する。ところがこの原理を組み合わせてものをつくると、千差万別という言葉通り、目的が同じでも全く違うものができたり、同じに見えても内容的には別の製品ができてくる。これがものづくりの難しさでもあり、また、楽しさでもある。

その厳しい競争原理と変転きわまりない世界市場の中で生き抜くための指針を中核企業の中から学び取ってもらうことを期待して新しく「売れるようにすれば売れる」という本にまとめた。

本日は時間もないのでこの本を全員に差し上げたのであとでゆっくり見てほしい。

 日本に何も問題がなくなって、どちらを向いてもうまくいっているということになってしまったら、そんな国には住みたくない。それは極楽というのであって、その次には往生という字が付く。日本にはじつに多くの問題がある。

昔風にいえば日本は地獄だ。地獄だからこそビジネス・チャンスがあるのだ。しかもビジネス・チャンスはつねに不況のときに生まれる。そのために日本という市場を、また世界の動きを観察しようではないか。

先ほどからデータで示しているように、とかくこの国の経済指数は世界のなかでも最高だ。それが不況というのは何かがおかしい。売れない理由を一生懸命発明する人がいるが、そんなことは無駄である。

皆さんは新聞等の報道するマスコミ不況に惑わされないで欲しい。皆さんの困ったことがあったら知らせてください。一緒に知恵を出しましょう。未来は過去の延長ではない。過去の経験だけでものをいっているあいだはだめである。


(略歴)唐津一
1919年満州生まれ、1942年、東京大学工学部電気工学科卒業、1948年日本電信電話会社に入社。1961年松下通信工業に入社。企画部長、情報システム部長などを経て常務取締役。1981年デミング賞本賞受賞、1984年、松下電器技術顧問。一方、東海大学経営工学部教授として経営工学部発足時から30年近く教鞭をとり現在、東海大学総合科学技術研究所教授、電通顧問
私は4年間、マーケティング、QC、ORでお世話になりました。     山下憲男