竹下は私心をなくせば大物になる
田原 中曽根康弘さんも四元さんにいろいろ相談をされたようですが、世間では中曽根さんは世渡りのうまい風見鶏と言われています。本当はどうなんですか。
四元 難しい質問だな…。
田原 鳩山さんや河野さん、岸さんよりはいいと思っているのですか。
四元 そういいとは思っていません。能力はある。現に六年間、内閣が続いたんだから。それは後藤田正晴と伊東正義が支えたからなんだが、あの二人を使ったのは、やはり中曽根だからだよ。
田原 具体的に、中曽根さんにどんな忠告や進言をされました?
四元 しょっちゅうした。「私心をなくせ」ということをね。
田原 中曽根さんが全生庵で坐禅を組むようになったきっかけは、四元さんの進言だそうですね。
四元 そう、僕が坐らせた。彼が自民党総裁に決まったその日の夜、あそこで十二時まで三時間くらい坐った。僕と稲葉修、それから僕と一緒に服役していた古内栄司という男と四人で。初めての人が、三時問も坐るということは大変なことですよ。で、終わった後、お茶を飲んでいろんな話をした。
田原 どんな話をされましたか。
四元 忘れたな。坐った後だから生臭い話はしなかったよ。
田原 ところで四元さんは、中曽根さんの後継者は安倍晋太郎さんがいいと考えていたとか。
四元 彼は惜しいことをしましたね。彼が生きていたら、今の政治はずいぶん違ったものになっていたと思います。
・安倍晋太郎(一九二四〜九一)は岸の女婿で福田(赳夫)派のプリンスと呼はれた。昭和五十七年、鈴木善幸の後継総裁選で中曽根康弘に敗れ、六二年のポスト中曽根総裁選に出馬するが、中曽根裁定で竹下に首班を譲った。竹下退陣直
後に病死。
田原 どこが魅力的だったですか。
四元 人柄ですね。人を見る眼があった。政治家として非常に優れた素質をもっていたんじゃないかな。
田原 四元さんほ中曽根さんに、「次は安倍さんがいい」と言ったのですか。
四元 最後の最後まで言ったよ。
田原 つまり、中曽根さんは四元さんの言うことを聞かなかった。指南役の四元さんを中曽根さんは裏切った……。
四元 まあ、安倍も、ああ体が弱くては総理にはなれなかったでしょうが。
田原 竹下登さんという政治家はどう見てますか。
四元 知恵は中曽根よりある。でも「小知恵」があるだけだ。スケールが小さい。なぜかというと、私心があるからなんだ。私心が取れれば、世の中や国家を救う大きな知恵が生まれる。リクルート事件で彼が証人喚問に呼ばれる前に、直接そう言ったんだ。「これだけの事件があって、その責任者はあなただ。あなたが責任をとらなければ、自民党は二度と立ち直れない」と。それで彼は翌日の証言で「その罪、万死にあたる」と言ったんだ。その精神さえ忘れなかったら、やがて大物になるんじゃないですか。